人生ラクに生きようよ

備忘録的に。

人生には楽園が必要だってねと西田敏行は言うけれど 『楽園』

吉田修一の二つの短編が原作の映画です。

出演は綾野剛杉咲花佐藤浩市柄本明など。

 

 

実際の殺人事件をフィクションにすることの是非

 

Wikipediaでは「サスペンスドラマ」となっていますが、はっきり言ってサスペンス要素は皆無の映画です。

全く違う土地で起きた実際の2つの殺人事件(「栃木小1女児殺害事件」「山口連続殺人放火事件」)が、同じ土地で起こったという設定で描かれています。

個人的には、実際の事件(しかも比較的最近起こった事件)を題材にしてフィクションを作るというのはあまり好きではありません。事実は小説より奇なりというように、そういった事件が創作者にインスピレーションを与えるのは当然かもしれませんが、被害者たちはそのために殺されていったわけではないので…。

この映画では、加害者(冤罪の可能性はあれど)の環境にフォーカスし、同情的に描かれていたので余計そう思ったのかもしれません。

罪を憎んで人を憎まずという言葉もありますし、こういった事件が起こらないようにするための喚起の意味があったのだとしても、正直被害者や遺族はどう思ったんだろうと思ってしまいました。

 

どこかにあるユートピア

タイトルの「楽園」は、綾野剛佐藤浩市演じる加害者(冤罪の可能性あり)が、楽園を求めて移住して来た、ということから付けられたと思われます。

しかし実際は彼らは田舎の秩序を乱す異端者でしかなく、村八分としか言いようのない扱いを受けます。このくだり、かなり見ていて辛くなります。はっきりいって胸糞悪く、映画だと分かっていても見るのが辛い。

田舎の人たちが完全なる悪者として描かれているように見えてしまったわけですが、彼らにも彼らなりの事情はあったわけで、そのあたりをもう少し描けていればもっと映画に深みが出たのでは?という気がしなくもないです。せっかく柄本明がいたわけですし。

ちなみに、このような描写だけだとロケ地となった地域(長野県らしいです)にも申し訳ないからなのか、祭りの描写や杉咲花村上虹郎の甘酸っぱい恋愛模様などがトッピングのように描かれています。

 

ちなみに、佐藤浩市が加害者を演じた「山口連続殺人放火事件」は「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者という貼り紙が有名なとおり、田舎での村八分が端を発した(少なくとも犯人はそう主張している)事件ですが、この映画の舞台よりはもっと人の少ない限界集落で起きた事件です。

 

雰囲気映画に集まった豪華キャスト

冒頭の通り、全くもってサスペンス映画ではないですし、ラストも中途半端、ただ田舎の鬱屈とした雰囲気を楽しみたいというときにはおすすめの映画です。

キャストはやたらと豪華ですね…。吉田修一原作、というだけでこれだけのキャストが集まるってことなんでしょうか。正直謎です。

監督がこの映画を通して伝えたかったこと、描きたかったことはいろいろあるのかもしれませんが、伝わってこなければなんの意味もないよなと思いました。